小説 SUMMER RAIN

夏の雨は時に優しく、時に無情・・・

序章

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 地下2階にあるショットバー『S&M』は、壁にマホガニー調の板を張り巡らせ、点々と散らばる古めかしいランプが店内を黄金色に染めている。そろそろ五十に手の届きそうなマスターの思惑通り、〈大型クルーザーのキャビン〉を巧く演出していた。

 上唇に髭を蓄え、万人受けする闊達そうな笑顔とテンポの良い会話、そして持ち前の鋭い眼力で二十年という歳月を一人で切り盛りしているこのマスターは、1年中小麦色の肌をしており、〈船長〉の役柄を難なくこなしている。

彼は“航海”に男の人生を追求し、実際に一級小型船舶操縦士の免許を持っている。毎年8月になると、旧友と二人、借りた小型の上で10日間、のんびりと過ごすことにしていた。二年もの間、数少ない休日を利用して没頭していた彼の長年の夢、25フィートのFRP船が先月遂に完成し、四十日後の初乗りを控えてとにかくご機嫌だった。

 店の常連たちはマスターの人柄と、この“夢のかけら”のような居心地の良い空間に魅せられてやってくる。

 

                                  〈続〉