第4章 夢のかけら 〈2〉
外に出ると土砂降りの雨が地面を叩きつけており、傘はほとんど役に立たなかった。マスターが急いで助手席に乗り込むと、車は滑るように動き出した。
マスターのマンションは店からだいたい車で五十分くらいのところにある。彼の家まではそれからさらに一時間近くかかった。
「景気はどう?」と彼が訊いた。
「うん、相変わらずだね。今夜なんかは出だしは良かったんだけど、後がさっぱりだったよ」とマスターは答えた。
それから二人の乗った車は交差点を右折した。しかし、それは帰路とは逆方向だった。
「おい、何処へ行くんだ?」と不審に思ったマスターが言った。「方向が違ってるよ」
「ちょっと走りたいんだ。つき合ってくれるだろ! キャプテン」彼の口調は極めて強引だった。
「この雨の中を?」とマスターは唖然として言った。
「こんな雨、たいしたことないさ。キャプテンと一緒なら、たとえ火の中水の中ってね!」彼は悪ぶれるでもなく言った。
「何処までいくんだ?」とマスターは諦め顔で訊いた。
「うん。海の見えるところ」と彼は言った。
マスターは目を見開いた。「おい、ちょっと待てよ。真夜中なんだぜ! 海っつったってこの土砂降りに暗闇じゃ…」
「わかってないね!」と彼はマスターの言葉を制した。「そういう気分なの、俺。そう目くじら立てるなよ!」
マスターは長いつき合いから、何かあったなと直感した。だから溜め息交じりに承諾した。
〈続〉