第4章 夢のかけら 〈5〉
いよいよ頂上に近づいていた。マスターは彼の方を向いてはいたものの、見通しの悪い前方からも目を離せずにいた。外はもう嵐で、木々は怒り狂ったように踊り続け、激しく車に打ちつける雨や風の音が彼のハスキーな声をかき消していく。
「全然気がつかなかったんだよな。まさか、あんなところにいるなんて…。なあ、そうだろ? そうだよな、雨で視界が悪かったもんな」
「おまえ、誰に言ってるんだ?」恐怖で喉がカラカラに乾き、マスターの声は嗄れていた。
彼はそれまでの沈んだ様子から一変して、今度は狂気じみた高笑いを始めた。
「ほら、笑ってるじゃないか。聞こえるだろ?」
マスターのからだに戦慄が走った。
「話してやれよ! キャプテンが聞きたいんだってさ」と彼は続けた。
「頼むからしっかりしてくれよ! いったい何の話なんだ?」
「後ろで笑ってるのが聞こえないのか?」彼はそう言うと左の口端だけ持ち上げて少し笑い、顎で後部座席を指し示した。
マスターは弾かれたように後ろを振り向いた。それまで気づかずにいたが、白っぽい毛布が何かに掛けてある。恐る恐る触った。毛布は水浸しだった。思い切って剥ぎ取ると、小さな女の子が横たわっていた。
〈続〉