SUMMER RAIN

夏の雨は時に優しく、時に無情・・・

第1章 見返りなき愛 〈4〉

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 依子は二十五年間の人生に於いて、欲しいものを取りこぼしたことはただの一度もなく、泰彦でさえその例外ではなかった。一見育ちの良さそうな、生命感溢れる表情をした、今や絶頂期と思われる彼が、まるで壊れやすい宝物を扱うように彼女の傍らに存在するのは至極当然のことだったのである。

この高慢な娘はその家柄や美貌のおかげで男たちからもてはやされ、愛されてもきたが、一度も誰かに満足したことはなかった。それまでの彼女のお相手は紋切型しか知らないお粗末な男ばかりで、いつも彼女の期待を裏切っては捨てられてきた。

 そんな彼女も泰彦との出会いには手放しの喜びようだった。彼女の眼に〈異端児〉と映った彼が彼女の期待を裏切ることはまずないように思えた。満たされた精神は倦怠感を見事一掃し、彼女を内面から輝かせていった。

 

 出会いから三か月たったある夜、泰彦は依子の上で果てた後、彼女をそっと抱き寄せた。「結婚しないか? ずっとそばにいて欲しいんだ」と彼は言った。

 依子はこの申し出をずっと待ち望んでいたかのように、恍惚とした表情で即座に答えた。「いいわ!」

 こうして二人は晴れて婚約した。すべてが順風満帆だった。披露宴には大物政治家や著名文化人など、そうそうたるメンバーが招待されていた。

 

                                 〈続〉