SUMMER RAIN

夏の雨は時に優しく、時に無情・・・

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ひとこと

小説『SUMMER RAIN』は1994年に執筆しました。 多少なりとも楽しめて頂けたら嬉しいです。

第4章 夢のかけら 〈6〉

頂上は目前だった。横殴りの暴風雨が一段と激しさを増し、2人の乗っている車も吹き飛ばしてしまいそうな勢いだった。 「あれは事故だったんだ…」後部座席に釘付けになっているマスターに、彼は声を戦慄かせて言った。「雨のせいだ。決して酔ってたわけじゃな…

第4章 夢のかけら 〈5〉

いよいよ頂上に近づいていた。マスターは彼の方を向いてはいたものの、見通しの悪い前方からも目を離せずにいた。外はもう嵐で、木々は怒り狂ったように踊り続け、激しく車に打ちつける雨や風の音が彼のハスキーな声をかき消していく。 「全然気がつかなかっ…

第4章 夢のかけら 〈4〉

彼は口を閉ざしたまま高速を下りた。マスターは不安そうに彼をみつめていた。雨は休みことなく驚異的に降り続いている。暗闇の中へ車ごと吸い込まれていきそうな沈黙が続いた。そして車は細く曲がりくねった暗がりの山道を、彼の危なげなハンドル捌きで登り…

第4章 夢のかけら 〈3〉

車は高速道路を走っていた。制限速度をはるかに超えたスピードを出し、時々スリップを起こしている。それでも彼は少しもスピードを緩めようとせず、ひたすら前方だけをみつめて沈黙を守っていた。 マスターはようやく彼が酔っていることに気がついた。「おい…

第4章 夢のかけら 〈2〉

外に出ると土砂降りの雨が地面を叩きつけており、傘はほとんど役に立たなかった。マスターが急いで助手席に乗り込むと、車は滑るように動き出した。 マスターのマンションは店からだいたい車で五十分くらいのところにある。彼の家まではそれからさらに一時間…

第4章 夢のかけら 〈1〉

最後の客が出て行くと、マスターはドアに鍵をかけた。それから洗い物を手早く片づけ、カウンターの上で売上金の計算をしていた。その時、“ドンドン”とドアを執拗に叩く音がした。マスターはカウンターの隅にある小さな時計を見遣った。午前一時二十三分だっ…