SUMMER RAIN

夏の雨は時に優しく、時に無情・・・

第2章 ヒッピーに憧れて〈2〉

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 今日の正午過ぎ、人気のない通りを恵理は一人で歩いていた。雨はまだ降っていなかったが、どんよりと曇った空がすべての色彩をぼやけさせ、生温かい風が肌にまとわりついて離れなかった。

 突然、猛スピードでやってきた一台の車が恵理のところで急ブレーキをかけ、降りてきた二人のチンピラ風の男に無理やり車に押し込められた。恵理が抵抗しようとすると男はナイフをちらつかせ、「おとなしくしてろ!」とだけ言った。

 車はひたすら郊外へと走り続け、辺りは緑一色になっていった。途中で走っていた国道から細い脇道に逸れ、今度は今にも覆いかぶさってきそうな森の中を果てしなく走った。舗装のなされていないその道は薄暗く、永遠に続きそうな気がした。

 やっと空を垣間見ることができた時、目の前に一軒だけでポツンと建っている、廃墟のような白い二階建ての建物が忽然と姿を現した。辺り一帯を不気味な空気が支配しており、ありとあらゆる怨念がまとわりついていそうな、そんな印象を受ける建物だった。車はためらうことなくその前で止まった。

 男たちは恵理を地下室へと連れていき、暗がりの中に放り込んだ。すぐにドアは閉められ、外から鍵が掛けられた。その冷たい金属音はすべての世界との断絶を思わせた。地下室はひんやりと涼しく、そしてあの独特なムスク系の香水の匂いが充満していた。手探りで電気のスイッチを捜し、明かりをつけた。女は肘掛け椅子に座っていた。

 

                                 〈続〉