SUMMER RAIN

夏の雨は時に優しく、時に無情・・・

第2章 ヒッピーに憧れて〈4〉

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 二年前、恵理はある高級クラブでピアノを弾いていた。その日もいつものように午前三時に店を引け、裏から出ていくと、一台の車が待っていた。

 後部座席の女が顔を覗かせた。「ピアノ、すごく良かったわ」女は微笑みながら言った。「よかったら、うちに来ない?」その微笑みはとても優しく穏やかで、何の悪意も感じられなかった。恵理が車に乗り込むと、女は満足そうにみつめた。

 それ以来、恵理は豪華なマンションで暮らし始めた。持ち主は有名なエステサロン『エクラ・ドゥ・ジュネス』の社長、峰岸麻美である。派手好きで強欲な麻美は、その完璧な美貌を武器に、あらゆる手段を駆使してその地位を獲得した。

 彼女は男に興味がなく、特別若い女を好んだ。男と寝るのはそれなりの利益が伴う時だけである。業界で彼女の性癖は公然の秘密となっていたが、彼女を非難する者は一人もいなかった。彼女に睨まれると必ず面倒なことに巻き込まれるからである。しかし三十代を迎えてからというもの、衰えてきた肌をひどく気にし、毎日手入れに余念がなかった。

 クラブで一目見るなり恵理の虜となった麻美は、当時二十一だった恵理のはちきれんばかりの若いからだや猫のような奔放さ、そして触れると壊れてしまいそうな脆さがたまらなかった。ベッドの上に横たわる二つの美しい肢体はいつまでも絡み合い、彼女の肉欲は果てることがなかった。露わになった乳房や禁断の園を優しく、時には激しく愛撫されると、彼女の口から悩ましい呻き声が漏れた。

 恵理に対する独占欲は募る一方で、嫉妬心はどんな些細なことにも刺激されるようになっていった。だから、恵理がそれを望もうと望むまいと何でも与え、どこにでも連れていき、できることなら首輪をつけてやりたかったほどである。麻美はどうしようもない、ガチガチのエゴイストだった。そのため、本来なら若者特有の幼稚で窮屈な主張を嫌悪していたにもかかわらず、恵理がそれを主張すると、恵理の意思を尊重しているように見せかけながら実に巧みに操っていた。

 

                                 〈続〉