SUMMER RAIN

夏の雨は時に優しく、時に無情・・・

第1章 見返りなき愛 〈2〉

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 依子と出会ったのは今からおよそ半年前の、祝賀パーティーでのことだった。

 四年前、全国で一、二を争うホテルチェーンを持つ、名うての『プロジェクトJC』から泰彦の勤める『サンライズコンサルタント』へ設計の依頼があり、その大役が目下成長株だった泰彦のところに回ってきた。念入りな打ち合わせを何度も繰り返した後、彼の設計したホテルの工事は急ピッチで進められ、予定通りクリスマスシーズンを睨んで完成。そしてその華々しい祝賀パーティーが催されたのである。マスコミを最大限に利用した派手な宣伝が功を奏し、斬新な造りをしたそのホテルは早くから話題にのぼっていた。自分の経歴に箔をつける仕事を完遂した泰彦は前途洋々だった。

 

 一方、目鼻立ちのはっきりした美人で洗練された物腰の持ち主である依子は、『プロジェクトJC』の社長の一人娘というだけで立派に人々の羨望の眼差しを受けるというのに、その完璧な容姿は一種“出来過ぎ”の感があった。

 そのパーティーで泰彦は依子と一度だけ言葉を交わした。彼が社長に挨拶に行った際、口紅と同じ上品なローズ色のスーツに身を包んだ彼女が傍らに立っていた。

「本当に素晴らしいホテルで、わたくし、父以上に気に入ってますのよ」

 彼女が微笑みながらそう言うと、泰彦は無邪気に礼を言った。目に見えない隔たりを感じながら、〈生まれつき安易な生活を約束された〉この令嬢を他の人々同様に羨望の眼差しでみつめていた彼は、その時依子に一瞬狡猾そうな表情が生まれたことなどまったく気づかなかった。

                                  〈続〉