第3章 裏切りの街角 〈3〉
それから女は流していたタクシーを拾い、彼を自分のアパートに連れていった。部屋には必要最低限のものしか置いておらず、電話もなく、カーテンさえ取り付けていなかった。あまりにも色気のない部屋だったことは確かである。しかし、すでに口の渇きに耐えかねていた彼にとってそんなことはどうでもよかった。すぐさま女を押し倒すと、貪るように抱いた。
彼の女性関係など知れたものだったが、彼女ほど肌の合う女は初めてだった。痩せたからだに似合わない豊かな膨らみや奥ゆかしい物腰が彼をますます興奮させた。彼女は声をたてることもなく、とかく従順で、彼の要求を何でも聞き入れた。
それ以来、彼は妻と子供の待つアパートに戻らなくなり、女のところから会社へ通った。彼が帰らなくなって一週間後、妻が会社にやってきて戻るようにと懇願したが、冷たく追い払った。彼に戻る気など毛頭なかった。
女は化粧を落とすと三十過ぎに見えた。相変わらず無口で自分のことを何一つ話さなかったが、彼は別に気にしなかった。彼女は妻のように不平不満を言わないし、何も欲しがらない。それにそのからだは店に出ている時以外は自分のものなのだ。彼女は失意の中にいた。彼にはそれがわかっていたし、それだけで充分だった。
〈続〉